感性を刺激する家

建物としての美しさを追求し、長く住まうほどに愛着が深まる住まいに……
真正面から見た建物の輪郭は、〝住宅を表すピクトグラム〟かのようにシンプル。しかし、地面から2階の軒までダイナミックにつながる大窓や、日当たりによって強調される壁面の立体感、そして極限までシャープに仕上げられた屋根のラインなど、じっくりと見れば見るほど〝つくり手のプロの技〟が浮かび上がってくる。こちら『感性を刺激する家』は、『吉川住研』のプランナー・吉川氏が自邸として手掛けたものだ。「日常の中に、非日常を感じられる生活を求めて計画しました」と吉川氏は言う。外観でまず印象的なのは、やはり〝エントランスまわり〟だろう。玄関扉を囲う壁は、左右も上部も全面がガラス張り。しかも室内側の土間スペースは、その真上が大きな吹き抜けだ。それ故にここは、日中は自然の光でいつも明るく、室内でありながら外で過ごしているかのような、何とも心地よい感覚に包まれる場所となっている。そしてこの土間は、和室やリビングに沿って奥の方へと続いているのが特徴的。その突き当たりも玄関部と同じく、吹き抜けの広々とした空間だ。「無駄のない効率的な間取りを構成するために、玄関部や土間の空間を極力削るという考え方もあります。でもこの住まいではあえて土間を広くとり、視覚的な〝広がり〟や多目的に使える〝余白〟として生かしています」と吉川氏。確かに住まい全体を見渡せば、視線の抜けは抜群。実際の床面積以上に広々と感じられる。なお、間口側の全面を土間にしたことには、〝外部からの視線に対する緩衝材〟として役立てる狙いもあったという。壁の仕上げは内部・外部とも漆喰塗りで、その一部にアクセントとして用いられているのは石灰岩の化粧材。そして屋根には土間と同じ玄昌石、室内の床には素材そのものの色味を生かした無垢のパイン材が使われている。結果、住まい全体の装いはプレーンな印象だ。「無垢の木や漆喰など自然素材をふんだんに使った家づくりは、見た目が〝可愛らしいテイスト〟になりがちです。でもこの住まいでは、玄昌石や石灰岩といった天然石、階段・手すりなどのアイアン素材、また家具などのインテリアで〝ほんの少しのシャープさ〟を添えました」。間取りのポイントは、幾つもの〝回遊動線〟が用意されている点。玄関部からサニタリーを抜けてLDKへ……階段を下りてすぐの土間スペースから玄関へ……と、家族5人がスムーズに移動・出入りができるレイアウトに計画されている。素材と、意匠性と、暮らしやすさにも徹底してこだわった、何をとっても魅力に満ちた住まいだ。
流行に左右されない
〝経年美化〟する自然素材の家
『吉川住研』の住まいづくりは、化学建材に頼らず〝自然素材のみ〟を用いることが基本となっている。接着剤も米のりで、塗装材も天然由来のもの。外側からは見えない下地板にさえ、ベニア・合板を使わない。これは当然ながら、作業工程が大幅に増え、また高い施工技術も必要となってくる、言わば「職人泣かせな家づくり」である。しかし同社ではさらに、流行に左右されないロングライフデザインを取り入れつつ、そこに暮らす人がいつまでも愛着を持ち続けられる装いに仕上げていく。その結果として、「なんだか良い」「居るだけで心が休まる」という言葉では表現できない〝極上の空間〟をつくり上げることが、同社にとっての〝決して曲げられない信念〟だ。こちら『感性を刺激する家』もまさに、同社が掲げる理想をカタチにした邸宅と言えるだろう。「完成からもう7年近く経ちましたが、新築当時と変わらず快適で気持ちよく過ごせています。無垢の床や柱・梁なども、色合いに深味が出てきました」と吉川氏。〝自然素材の家〟ならではの魅力は、これから先にも増していく。
■写真:新築から何十年と経っても古びた印象にならないよう、外観・内観ともロングライフデザインで計画されたこちら。実際、新築から7年近くが過ぎているが、以前も今も、周囲の景観としっくりなじんだ佇まいだ。
物件情報
タイプ | 二階建て |
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築年数 | 新築 |
敷地面積 | 320.54㎡(96.96坪) |
延床面積 | 187.74㎡(56.79坪) |
詳細情報
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玄関部からそのまま奥へと続く土間。小上がりの和室・LDK・階段ホールのそれぞれとつながっているので、家族5人の日常でも、ゲストを多く招いたときでも、スムーズな移動や出入りが可能となっている。
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漆喰塗りの白壁に、木の色合いを生かした無垢の床、そして空間を完全に分断しない間取りにより、住まい全体は自然な明るさと大きな開放感でいっぱい。LDKでは、造作キッチンの天板に使われた御影石の重厚感が、その装いのアクセントとして一役買っている。
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日々の暮らしに“広がりと豊かさ”を生む、ゆったりと広い階段横の土間スペース。この空間の壁の一面には、土間と同じ玄昌石が用いられた。
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真正面から見たシルエットはシンプルながら、細いラインの切妻屋根や地面から軒までの絶妙な高さなど、家づくりのプロなら思わず目がとまる秀逸の外観デザイン。
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室内は“自然素材の家”らしいナチュラルな装い。そんな空間にテーブルやソファ・ラグなどで、“ちょっとのシャープさ”をプラスしたという。
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玄関ホールからLDKへの通り道には、さまざまな用途で役立つ造り付けのカウンターデスクを用意。
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家族5人分の靴や上着をたっぷり収納できるよう、玄関クローゼットも大容量。
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こちらは2階ホール。勾配天井と大窓の効果で、抜群の開放感だ。
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屋根の下地となる野地板には、床と同じ厚さ30mmの無垢パイン材が用いられている。
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植栽をほのかに照らす間接照明や、大きな窓からこぼれ出る室内からの明かりが、住まいの表情を一層豊かに。吉川氏は、夜に見るこの風景が特にお気に入りで、ゆっくり眺めていると自らの感性が刺激されるそう。
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階段ホール横の広々とした土間では、吉川氏が趣味のピストバイクを整備したり、お子様が野球の素振りをしたりとさまざまな用途で使われているそう。また階段下には収納を設けることで、デッドスペースも有効に活用。
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こちらは玄関側の土間。玄関扉の正面には坪庭に向けた開口があり、また空間の丸々が吹き抜けになっているため、格別の開放感が広がっている。
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壁にも浴槽にも、土間と同じ玄昌石を張り巡らせたバスルーム。坪庭の横にレイアウトされているので見晴らしも良く、優雅なひとときを堪能できる。