一本松の家

子どもの頃の想い出が朽ちる前に
住まいを子世代につないだ安堵感
自前の木で、価値ある古民家再生
安政3年に手に入れたと記録が残る160年以上前の家。
とにかく、子どもや孫世代にこの住まいを残したい。
祖父が植えた樹齢50年の木を使って改修するには
木に精通した工務店の存在が必要だった。
160年以上の年月を積み重ね、お施主様の父の代まで住み続けてきた住まいは、手を入れずに放置していたため、もはや廃屋寸前だった。家の横にあった蔵がすでに朽ちてしまったこともあり、とにかく残したいという想いが強かったとお施主様は話す。子どもの頃から折に触れ、祖父母との時間を過ごした住まいを何とか残したい。さらに改修には、ご先祖様が植えた杉の木を伐採して使いたいという要望もあった。これらの想いをかなえられる工務店は少なく、十津川村の木を使った家づくりや、古民家再生を数多く手掛けていた『建築工房和』に白羽の矢が立った。
家の裏側の部分は朽ちている部分も多かったので、思い切って減築を提案。建具や家具は、経年の風合いを生かして再利用し、伐採した杉は外壁や床材だけでなく、家具の造作にも活用している。そして、かまどのあった場所は土間を広げて、大きな梁が映える大空間に生まれ変わった。「伐採から家づくりまでお願いできる和さんだから、かなった古民家再生。子どもたちの時代に残すことができてほっとしている」と話すお施主様ご夫妻。現在は月に数回訪れ、ゆったりとした時間を過ごしているという。
物件情報
タイプ | 二階建て |
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築年数 | 築160年以上 |
リフォーム面積 | 1F123.47㎡(37.35坪)、2F115.54㎡(34.95坪) |
施工期間 | 8カ月(解体含む) |
詳細情報
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曽祖父の時代は、蚕を飼っていた部屋だった。床を剥がすと石組みの囲炉裏の跡があったという。縁側だったスペースにも杉板を貼り、部屋を広げた。木は以前のものを生かし、壁は新たに漆喰を塗っている。
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年代を感じさせる建具や古道具は、できるだけ残し、新しくなった住まいに溶け込むように配置されている。
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リノベーションには、お祖父様が植えた樹齢約50年の杉を使用。
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外壁に使用した杉材はもとの外壁から浮かないように、同じような色合いに塗装を施している。リノベーション完成後もお施主様はコツコツ周辺環境を整えているそう。家の前に生い茂っていた木や草も伐採し、森がよく見えるようになった。
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ここは昔、かまどがあった場所。土間を広げて、ストーブを設置。家族団らんの場に生まれ変わった。
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中2階は、杉板をふんだんに使った空間が広がる。1階はもともと牛舎だった。ここは、お孫さんが泊まりに来たときに、過ごすための場所となっている。
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天井高があるので足場を組み、かまどの煤で汚れた梁は大掃除のかいあって、輝きを取り戻した。内壁はパテ埋め後、アク止めをして漆喰を塗っている。
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柔らかな色合いの土間は、マサキチという三和土専用の材料を敷いたもの。自然土そのままの落ち着いた風合いが、古民家によく馴染んでいる。
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以前と同じところに流しを設置し、キッチンは同社が造作したもの。水は谷の水と井戸の水を併用。勢いよく落ちてくる水は自然の恵みだ。
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父親の叔父が造ったという階段は、中2階への階段として活用。
代表取締役 松葉勇
これまでも自分の山の木を使いたい、というご要望のお施主様は何人かいらっしゃいましたが、お施主様のようにほぼ100%調達したケースは初めてでした。70~80本の木を伐採するにあたり、森林組合とともに山を歩き、どの木を使うかのマーキングにも同行。手前の方だけ切れば運ぶのも楽ですが、残された森のことも考えて、間伐のように自然な形で伐採するように依頼しました。床材はもちろん、机やキッチンなども、伐採した杉を使って造作しています。