音楽サロンに再生した古民家

「西の芦屋 東の曽根」と称された豊中台地の南端、広い庭に石垣をめぐらした築84年の日本家屋。家族の安全を守るための耐震補強と同時に夫婦の夢だった音楽が心地よく響く空間に。
昭和15年に和歌山の材木商によって建てられた母屋。こちらで生まれ育ったお施主様は、地震や台風のたびに大きく揺れて壁に入る亀裂に不安を感じていたが、段階的な改修に留めていた。大和郡山の奥様の実家のリフォームを手掛けたのが『輪和建設』で、質の高い仕事ぶりを実感し自邸も依頼。8年前にまず子ども部屋と収納に使っている昭和40年頃築の離れと母屋の奥様の部屋を改修。プロのバイオリニストである奥様が練習しやすいよう天井を高くし、押入れを楽譜と衣装が収まるクローゼットにした。その後、2018年の大阪北部地震を機に耐震工事を施すことを決意。同社社長中西氏が奈良支部長を務める古民家再生協会が耐震調査・計算・計画を行い、同社が制震ダンパーを入れて耐震パネル型面格子壁を施工した。診断では十分な強度があったが、南北に掃き出し窓があるため、東西の揺れに弱い造りが気になっていた。「ミシミシ聞こえた音がしなくなり安心です」。同時に、ご夫婦の夢だった音楽サロンも実現。居間と座敷の垂れ壁を外し、廊下にも琉球畳を敷いてワンフロアに。年3~4回コンサートが開かれ、人々が集う場所になっている。
■写真:音楽サロンになる座敷と居間は壁を聚楽壁から漆喰に変え明るい雰囲気に。縁のない琉球畳にして空間の連続性を持たせている。床の間のある座敷は柾目、居間は板目でそろえられた天井、床の間の木などは昔のまま。
物件情報
構造 | 木造伝統構法 |
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築年数 | 築84年 |
詳細情報
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和室での演奏会
垂れ壁と欄間を取り外して2つの和室をワンフロアにしたことで、演奏もしやすい広々とした空間に。
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落ち着きある玄関
玄関の聚楽壁も塗り替え、廊下の床は畳敷きに。ホールの両サイドの壁に制震ダンパーが入り、新設された柱も元からあったように自然になじんでいる。
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既存を活かした茶室
天井の椿の木や丸窓などはそのままに、聚楽壁を塗り替えた茶室。
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竹編みの丸窓
ご主人が残したいと強く希望した竹で編まれた丸窓。埋め込まれていた壁に薄く亀裂が入っていたため、まず壁から取り外して、厚く造り直した聚楽壁に再度窓を取り付ける工事を行った。
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歴史を残す庭
歴史が刻まれた様子はそのままに、美しい仕上がりにもこだわり、未来へとつないでゆく母屋
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古民家の耐震補強
揺れを吸収し建物の強度を上げてくれる制震ダンパー。飾りなどがない壁にしか配置することがかなわないため、お施主様との相談の結果、計11カ所の壁に入れることになった。
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グッドデザイン賞の格子壁
グッドデザイン賞を受賞している間伐材を使った古民家耐震パネル型面格子壁。優れた耐震機能を持ちつつ、採光も確保し、何より見た目が美しい。取り付ける壁の間口高さに合わせて調整が可能で、伝統的な屋敷の空間にもなじんでいる。
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レトロな洗面
奥行きが狭い洗面所に合うサイズの洗面ボウルや蛇口など、ご主人がネットで探されたものを使い改修。建具の木材などは以前からのものを使用しており、レトロな雰囲気にマッチしている。
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欄間の再利用
元は座敷と居間の間の垂れ壁に2枚の欄間がはまっていた。1枚ずつ窓側の垂れ壁の障子の窓に重ねて再利用。漆が塗られた大阪欄間だと推測されている。
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生活に合わせた天井高
奥様の練習部屋は、演奏中にバイオリンの弓が当たらないよう、梁の高さに合わせた折り上げ天井になっている。天井の木目も揃い美しい。
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押し入れをリメイク
和室の押入れをコンサート用の丈の長いドレスも吊れるクローゼットや書庫にリメイク。書庫の扉は全身鏡になっている。
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畳の縁側
縁側の廊下も畳にしたことで、庭も楽しむことができるくつろぎやすい空間になっている。庭の松の木は、大正の宅地開発前からあるもの。
代表取締役社長 中西 直己さん
同邸宅はいわゆる町家で骨組みは現代の家とほとんど変わらない構造でしたが、大阪北部地震の時、揺れによる壁のひび等が気になられ、揺れを少なく安心して暮らせるようにと耐震補強を行いました。耐震補強は、古民家の特性を生かす振動計を用いた時刻歴応答解析によるもので、制震ダンパーと面格子型の耐震パネルを併用しました。また、以前の「趣」はそのままでというご希望をかなえるため職人たちが技術を結集し、ご納得いただける仕上がりとなりました。